EPISODESOH 20th Anniversary

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EPISODESOH 20th Anniversary

EPISODE.1 vol.2

ウイルス感染症を経て、
日本人らしい
想像力が求められる世界に

音楽プロデューサー 松浦晃久

EPISODEの記念すべき第1回目のゲストにお迎えしたのは、音楽プロデューサーの松浦晃久さん。人生と音楽との関わり、ライフワークとなっているにいがた総おどりとの20年の歩み、伝統芸術のこれからなど多角的な切り口から、長年音楽業界の第一線で活躍し続けている敏腕プロデューサーの文化論に迫ります。

「伝統」になる文化のキーワードは「しなやかさ」。
変化しない文化は淘汰される。

前編で「時代が変わっても大切に変わるべきでないものと、変わることに対して勇気を持つことを大切にする」とおっしゃられていましたが、にいがた総おどりに限らず、文化全般に共通して言えることのようですね。

松浦そうですね。例えば、アート・ミックス・ジャパンに毎年出演している、小山豊君という津軽三味線の家元の奏者がいます。まさに継承すべき文化のど真ん中にいる人で、先日彼のアルバム制作をお手伝いしました。すごく前衛的な伝統音楽で、彼も変わることを厭わず、でもその中で自分たちが守っていかないといけない伝統文化みたいな部分をすごく慎重に、彼なりの目線で捉えて作っていました。

まさに変わる勇気を持った継承者なんですね。

松浦生き残ってきた伝統芸能は、変化していないはずがありません。僕は伝統芸能に携わってきた人間ではありませんが、変化すべきではないとしたものは、淘汰されてきたと思います。なんでも新しいものを取り入れて、AIを使えばいいなどではなく、絶対に大事にしないといけないものと、時代に合わせてしなやかに変化していかないといけないものとがある。そして芸能である限り、大衆と繋がっているということが絶対です。実際にそれができているものが生き残ってきているし、すごく美しさも、強さも、厳しさも、豊かさも、しなやかさも、優しさもある。それはちょっと素敵だなと思うし、崇高さを感じます。

伝統芸能や文化活動というと、年を重ね、守っていくイメージが強いです。若手アーティストの挑戦と同時に、若い人たちが見る環境についてはどのように感じていらっしゃいますか?

松浦観客も、今は着物を着て観にいかないといけないという時代ではありません。私は、それでいいと思っています。ただ、その文化を体験するには楽しみ方というものがあって、その楽しみ方にのっとって鑑賞すると、「あ、なるほど。ちょっといい気分かも」というような体験ができるんです(笑)。
茶道を例に挙げると、ずっと正座するのは慣れないとつらいし、僕も所作はよく分かりませんが、分からないなりに自由に飲んでいいよと言われても、最低限の作法に沿って飲むと、何か感じるものがあって、ちょっとスッとした気分になったりします。そんな気分を体験できるのも、伝統文化の素敵なところだと思います。

今、世界に求められる日本人らしい想像力。

日本の文化の現状をどのように捉えてらっしゃいますか?

松浦どんどん変化していく中で、何百年も続いてきたものを守るということは、すごく大変でタフなことだと思います。しかし、一方で頑なになりすぎることはかえって弱くなることを意味します。いろんなチーズ食べた方が最初はお腹壊すかもしれないけど、お腹は強くなる(笑)。やっぱりそういうしなやかさみたいなものを持っている人や芸術に、魅力を感じますね。

小山さんをはじめ、そういったアーティストがきっとこれから伝統を発展させていくだろうと。

松浦しなやかに変化していくことが伝統文化の一つの生き残る術かもしれません。もちろん正式な形で見ることは大事ですが、しなやかな変化は絶対していくべきでしょう。例えば、文化を知ってもらうためのアプローチは、もっと柔軟でもいいかもしれない。アート・ミックス・ジャパンであれば、各演目は45分という本来の公演よりも短い構成です。賛否両論あると思いますが、1日の中で少しずつたくさんの伝統芸術を見ることで、漠然と伝統芸能に興味を持ったり、その中で面白いと思ったジャンルをさらに見に行こうと思ったりすることもあるわけです。
そうやっていくことで、実際に舞台に足を運ぶきっかけになったり、日本っていいなと思ったりするなら、どんどんしなやかにやってみたらいいと思うんです。

伝統芸術の未来をどのように感じられていますか?

松浦最近思っていることは、世界的にコロナが蔓延して、実際音楽業界も大変なことになっています。コンサートツアーも一切できなくなって、レコーディングスタジオによっては8人以上入れないところもある。そうするとオーケストラなんて集まれません。つまり演奏できるものできないものが限られてきます。無観客配信の挑戦もやるべきだと思いますが、人と人との関係や距離感というものが見直されていて、やっぱり人と一緒にすることが絶対に大切なものと、リモートでよかったものがわかってきています。
そうなってくればくるほど、日本人が得意としている想像力、例えば伝統芸能もですが、呼吸とか間合いとか、気配とか、いわゆる(空気読む)よりももっと自然や人間の魂、もしくは精神みたいなものに近い状態で察することや感じること、伝えることや受け取ることの感性みたいなものが世界的にもっと洗練され、大切なものになっていくのではないかと思っています。それはひょっとすると日本が世界に輸出するべきことかもしれないと思うし、ちょっとどうなっていくか知りたいですね。

何の影響も受けない「自由」な創作はあり得ない。

前編では制作手法の話も出ましたが、松浦さん自身が「自由に作っていいよ」と言われたら、作りたいものはありますか?

松浦映画音楽をやりたいとも思いますが、映画があっての音楽だからそれはもう「自由」ではなく制約があります。何事もそういうことはあって、どうとらえるかということですよね。社会で生きていくには誰の世話にもならず誰とも接触しないわけにはいきません。つまり何かと接触することは0というわけではないから、そうやって出来上がるものは何かしらの制約を受けているわけです。制約というか、影響ですね。

何かしらの影響を受けながらも、クリエイティブなお仕事ですよね。抽象的なものを作る作曲など、非常に難しそうです。

松浦頭の中に音楽が流れてもきますが、苦しみながら生み出したものが美しかったということもあります。絵や文章といった視覚や言語で目に見えるものは、より限定的に物事が伝わる分だけかえって危うさがあるとも思います。音楽の方が漠然としていて、その代わり簡単に「クラシックとかジャズとか難しいからわからない」「眠くなる」とか言われるんですよね。しょうがないけど、傷つきますね。
ただその音楽を浴びれば、ジャズが難しくても難しくなくても、気持ちが乗るか乗らないか、機嫌がいいか悪いかで判断すればいいことなんですよ。食べ物も同じで、おいしいものに関して「難しくてよくわからない」なんて言いませんよね。音楽も本当はそういうものなんです。食べてみておいしいか美味しくないかだけジャッジすればいいんです。美味しくないって言っても顔が喜んでいるならいい(笑)。

音楽はどこか抽象的でつかみにくい部分もあるとも思っていましたが、それ自体が思い込みなんですね。

松浦料理も音楽も同じで、愛でてくれればそれでいいんです。

想像を超え続けてきた20年。そして期待を超える未来へ。

松浦さんが今後やりたいことを教えてください。

松浦それは来年のにいがた総おどりですよ。「今年できなかったからそれは来年はやるでしょ!」と言う気持ちです。それが今一番思うことかな。

来年はいよいよ20周年という節目になりますね。立ち上げの頃は20年続いている様子を想像していましたか?

松浦全く想像していません。むしろ、最初は祭ができるかどうかもわかならいところから「やる」と言ったけど、終わってみて本当にやれたんだというような状態でした。事務局は成長しているなと思いますが、でも、20年間毎年ヤバイね、まだまだヤバイことがあるねと言いながら(笑)いろんな危機を乗り越えてきたわけです。その度にもうこれ以上のヤバイことはないのではないかと言っていたら、今度は開催できないという危機。今まで以上の危機ってあるんだと今回思いました。
来年は一体何が起こるのか…でも正直、無責任に聞こえるかもだけど、あんまり決めてかかるといいことないので、意外と決めないんですよ。決めてかかると予想していないことだらけで、立ち回れなくなっちゃうと困る。何が来ても必死に柔軟に対応できるようにしておかないと、と思っています。

来年どんな景色を期待しますか?

松浦みんな2年分の思いが炸裂して「やったー!」というのが一番だと思うし、それこそ、会えないということを経験した上で会えるという現実をみんなが楽しんで味わってくれていたら、それは成功ですよね。

長年総おどりを見続けてきた松浦さんが思う、にいがた総おどりの見所を教えてください。

松浦常に、時間通り進行しているかとか、みんな転んだりせずに踊れているかとか、音出しのタイミングが合っているかとか、祈りながらハラハラしています(笑)。それでトラブルがあると「うわーっ」と思いながらも、どこかで「乗り越えてやろう」とポジティブに向き合っている自分もいるんです。
そんな中で、実は一番感動するのは、一番最後の万代シテイでの片付けの様子なんです。全部片付けて真っ暗になって全員が疲れ切っている中、ホストチームである響’連のメンバーやボランティアスタッフが、万代シティの道を全部ガムテープでゴミを拾い、ショーウィンドー磨きを一生懸命やるんです。運営と踊りとで疲れきっているはずなのに。あれが総おどりの一番グッとくるところです。そういったものによって、総おどりが出来上がっている。大事なことであり、あの光景が実は一番好きかな。

予想だにしないことが度々起こるとおっしゃられていますが、総おどりに携わっている中で「それやっちゃうの!?」と驚いたことはありますか?

松浦これからありますよ、期待してください。

音楽プロデューサー・松浦晃久さんの
インタビュー記事 前編はこちら

PROFILE

松浦晃久 Akihisa Matzura

アレンジャー、プロデューサー
作曲、アレンジ、サウンドプロデュース、シンセサイザーオペレーションを自らこなし、10代の頃より数多くのレコーディングセッション、ライヴに参加。徳永英明、秦基博、平井堅等の男性シンガーから、 絢香、JUJU、西野カナ、miwa 等の女性シンガーの作曲、編曲、プロデュースまで幅広く手掛ける。 打ち込み系から生のバンドサウンド、繊細なストリングスアレンジ、 オーケストラアレンジと幅広い音楽の知識と世界を持つ。 非常に幅広いサウンドは、数々の作品の中で強烈な存在感を放ち、 多方面から支持されている。
また、ヴォーカルディレクションは、アーティストからの支持も厚く、 コーラスアレンジにおいては、カヴァー作品にて、スティービー・ワンダー本人から大絶賛される経験を持つ。
よさこい関連の作曲にも多数携わっており、にいがた総おどりは立ち上げ期より携わる。

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