EPISODESOH 20th Anniversary

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EPISODESOH 20th Anniversary

EPISODE.4

文化を極めることにゴールはない。
伝統になるかは後世が評価

新潟万代太鼓 華龍
代表 田村佑介
奏者 渡辺百枝

音が聞こえてくるだけで、自然と体がはやりだす。にいがた総おどりに欠かせない新潟万代太鼓華龍の太鼓や篠笛、鳴り物や歌声は、人の心も体も踊らせる力があります。下駄総おどりや2015年からスタートした「2020年に向けての4部作」の一作目「華」の伴奏、そして会場を盛り上げるパフォーマンスは、祭りの名物の一つです。
50年以上続く新潟伝統の万代太鼓を継ぐ若手奏者のお二人による、伝統を大切にしながらアップデートしていく挑戦を、笑いやジェスチャーも交えながらのインタビューでお楽しみください。

受け継がれる基本を守りながら暴れる、若手和太鼓集団「華龍」

にいがた総おどりといえば、万代太鼓華龍の皆さんの演奏が欠かせません。改めて「万代太鼓とは」「華龍とは」を、教えてください。

田村万代太鼓は約50年前、「新潟まつりに新しい和太鼓を取り入れて盛り上げたい」と小泉光司先生が創始した和太鼓の郷土芸能です。小泉先生が創設した万代太鼓の団体・飛龍会を経て、2011年7月に僕が立ち上げたチームが華龍になります。今一緒にインタビューを受けている百枝さんと全部で4人で始めて、この4人は闘魂四銃士です。今は20代を中心に県内外に11名メンバーがいます。太鼓だけではなく篠笛や鳴り物なども一緒に演奏します。

渡辺闘魂四銃士なんて、初めて聞きました(笑)。私は、篠笛を始めた小学校の頃からずっと田村さんに教えていただいていて、立ち上げの話を聞いて、何か絶対面白いことをやられるのではないかと思い、すぐについて行こうと決めました。
万代太鼓は湊町新潟らしい楽器です。太鼓で日本海の荒れた様子を表現することも多く、「湊太鼓」という曲もあります。

どのようなところで演奏を披露していらっしゃるのですか?

渡辺「全力で楽しむ」をモットーに、提案されたお仕事は全て受けていて、お祭りやイベント、結婚式にお声がけいただくこともあります。学校で子供たちの前で演奏する機会も多いです。そのときは大体ワークショップも一緒にしますが、そうするとやっぱり楽しいという反響が多いですね。

万代太鼓を演奏する醍醐味を、教えてください。

田村演奏したときの「ああ、やっぱりこれだよね!」という感覚です(笑)。伝統芸能というとどうしても古い、かしこまっている感じがするものですが、そう思っている中で、若い人たちが基本を大事にしながら暴れまわるっていうところが華龍のいいところであり、持ち味ではないかと。そこで演奏を通じて、伝統とか古いイメージの太鼓が実は楽しいのかな、笛楽しいのかなとか感じてもらえると嬉しいです。

渡辺個人的には外国の方と触れ合うことが大好きなので、やっぱり新潟というキーワードを持つ万代太鼓をやっていて、新潟を万代太鼓で伝えることができることですね。海外のいろんな文化を持つ方と太鼓を通じて触れ合える機会がすごく嬉しいです。特に篠笛の場合は、すごく軽くてどこでも持っていって吹けるのでいろんな方に音色を届けられるのは、やっていてよかったなと思います。

大変だけどやめられない、演者・裏方・お客さんとの一体感

にいがた総おどり当日も、華龍の皆さんの演奏が会場を大きく盛り上げてくださっています。どういった経緯で関わりが始まったんですか?

田村華龍立ち上げ前から、僕は個人や飛龍会で、第1回から演奏をさせていただいていました。そういった中、下駄総おどりで笛を吹かないかと声をかけていただいて、以来、華龍としてずっと出演しています。華龍の他に、僕は新潟の津軽三味線と太鼓の若手アーティストたちと音魂という4人組の和楽器ユニットを組んでいますが、これも総おどりの演奏がきっかけで結成したものです。だから本当に大事なお祭りなんです。

他のお祭りでも演奏されていると思いますが、総おどり当日はどんな気分になるものでしょうか?

渡辺曲を覚えたり大変なことは色々ありますが、やっぱり当日あのスポットライトを浴びながらお客さんがたくさんいて、踊り子の方たちと一緒になるのは、こんな、ドッカーンという感じですよね(両手を上げるジェスチャー※ぜひページ下のインタビュー動画をご確認ください)。

田村もう、わっしょいわっしょい!ワオワオ(笑)!
翌日の疲労感は半端ないですけど、裏方で作っている人たちは、本当にすごいと思います。そこに乗せていただいてガンガンやらせていただけるのは嬉しいし、それこそ一体感、お客さんと裏方さんと演者と一体感でハッスルということで。

総おどりでは4部作「華鳥風月」の1作目「華」が、まさに華龍の楽曲からアレンジしたものになっています。

田村自分たちにもいい経験になるかなと思ったんですが、作ってみたら大変で、踊りと合わせるのってこんなに大変なんだなと。本当に毎年辞めようと思うんですが、やめられないですよね、そこは(笑)。やりだすと「なんとしてでもみんなで祭りを盛り上げるんだ!」ってなっちゃうんです。

挑戦は伝統の枠を超える、感動は国境を超える

万代太鼓華龍の代表として、大切にされていることはどのようなことですか?

田村私の信条として、まず自分が好きなことをしたい。でも万代太鼓の基本はしっかり守りながら、「こんな仕事どうですか」と提案されたら、まずはやってみようと。普通どうしても伝統芸能だと、自分たちのやってきたことから外れることが難しく、それは一つ良いことでもありますが、それをなるべく取っ払って頑張ってみようかなと。それが一番ですかね。
あとは当たり前だけど「常に全力」。いつでも全力で、そして自分たちも楽しみながらやらないとお客さんは絶対楽しくないので。これはメンバーにも言っています。

これまでの演奏活動を通じて感じた、演奏者としての醍醐味や印象的な出来事を教えてください。

田村2015年の3月に華龍として初の海外公演に行かせていただきました。韓国の清州(チョンジュ)で、総おどりの皆さんも一緒でした。
演奏中も拍手があったんですが、我々の演奏が終わった後にバーンって皆さんが立って拍手してくださって。海外の方からあんなに大きな反響をもらえるなんて、あの時は本当に正直涙が出て、「ああ、やっていて本当に良かったな」と思いました。そのあと最後は総おどりとコラボして、さらに楽しい気持ちでやれたというのが…。

渡辺忘れられないですね。

田村本当に舞台袖で泣いてしまって、みんなと握手したっていう。

渡辺しましたね(笑)。

田村今思い出しても涙が出ます。本当にいい機会でした。

進化し続けることで、伝統になる。評価が決まるのは死後かもしれない

大きなやりがいとともに、伝統の芸を極めるということは難しさもあると思いますが…。

田村「枠」ができてくるのはいいことだと思いますし、それを大事にしながら一回壊してしまうのもいいかもしれませんが、“もと”がしっかりありながら、やっぱりその時代その時代に合った色々な形で伝えていかないと、多分崩れると思うんですよね。

「学ぶ」「なぞる」だけでは廃れてしまうということですね。

田村万代太鼓自体もできてまだ50年で、尊敬している万代太鼓の創始者・小泉先生がよく言われていたことが、やっぱり50年、100年経たないと伝統にならないと。歌舞伎のお話を聞いたりすると、やっぱり300年400年やってきた中でスーパー歌舞伎を作り出すなんて、いまだに進化している。それを知った時に「ああ、いろんな形でいいんだな」と。だから今度私もゴンドラにでも乗って太鼓を叩きながら降りてこようかなと…それはないですけど(笑)。
変化に乗っていきながら、自分たちが楽しむ。次の世代にこの万代太鼓や踊り、笛もそうですが、いいと思ってもらえるものを伝えていかないとと思うし、これが難しいことでしょうか。

渡辺そうですね。この世の中いろんなジャンルのものが溢れているので、正しい、正しくないではないと思いますが、自分が本当にやってきている一本の筋はどこにあるんだろうと、ブレてしまう時がたまにあります。そこをブレずに極めていくこと、だけど新しいものを入れていくというところがもどかしさ、難しいところかなと感じます。

伝統文化を背負うことで感じる誇りやプレッシャーはいかがでしょうか?

田村背負うというのもまだまだですが、楽しみながらも、結局は万代太鼓や総おどりといった“そのもの”を、次に伝えていかないとダメだなと考えています。それも仕事。そのためにも、少しずつ変えていったり、「いいな」「やってみたいな」と思うものは喜んで取り入れてみる。とりあえずはやってみて、可能性を広げて、最終的にゴールはないので、10年先、20年先、自分たちが亡くなった後に、「ああ、やっていたことが正しかったよね」ということになるかもしれないので。

渡辺同じくです。

たくさん存在する文化の中から、子供たちに和の文化を伝えていきたい

今後、伝統文化というものは残していかないといけないものだと考えられていますか?

田村壊したり色々やっていった中でそれが伝統となると思うので、極端なことを言えば、最終的にやっていることが伝統になればいいと思います、だから今までやってきたことも自分たちがいいと思ったら基本として残しながら、自分たちで付け加えていくものが伝統になっていくといいますか。

渡辺今の自分にできることは、田村さんが「笛ってすごい!」「太鼓ってすごい!」と感じさせてくださって憧れたように、今度は私が笛や太鼓を演奏して、あのお姉さんがやっている楽器楽しそう、やってみたいなと思ってくれる子を増やしていきたいと思います。

田村いろんな文化のジャンルが増えてきている中で、太鼓文化、笛文化、踊り文化といった和の文化をどのように伝えて、これから先につなげていくかを考えないといけません。次の世代の子供たちに向けて、楽しいと思える和の文化を追求していけたらと思いますね。そのためにも、まずは自分がチャレンジすることを忘れないこと。あと多少痩せることですかね(笑)。

EPISODE MOVIE

EDITOR'S NOTE取材後記 ライター:丸山智子

終始笑いの絶えないインタビューでしたが、韓国でのエピソードの際、実は田村さんが思い出して目を潤ませる場面もありました。
にいがた総おどりで会場を盛り上げる圧倒的なパフォーマンス力とトーク力は、そんな豊かな感性から生まれているのですね。
百枝さんは、ふんわりと優しい雰囲気ながら、話し方から言葉の選び方までトーク力が高く、一つの道を追求するしなやかな強さが伝わってきました。
全ての回で動画はおすすめですが、今回は特にお二人だから醸しだされる雰囲気と、息のあった美しい篠笛のハーモニーをぜひお聞きください。